高度成長力の属折段階

高度成長力の属折段階

一九七〇年代の日本は、いまやまさにそうした高度成長力の属折段階にはいりつつある、とみるべきであろう。潜在販路の拡大余地の逓減、労働力の不足、優秀立地の制約、原料確保上の制約等々の実情がこれを語っている。この角度からみると、四一年度以降四四年度まで設備投資は、前年比増加率が三二%余から二八%余(四四年見込み二六。二%)の大を示したものが、諸機関の四五年度見通しでは、工事着手ベースで一五― 一六%、特殊事情のある支払いベースで、二〇%前後に鈍化していることは、金融引締めの効果とみるよりも、その大部分は以上の減速段階へ転入する屈折現象とみるを妥当としないか。

 

そうだとすると、これは金融引締めによる景気の鈍化現象ではなく、わが経済または景気体質そのものが、つぎのごとき新段階に転入しはじめたこと、したがって景気の安定度が強まる状態に移りつつあることを示唆するものとして、重視すべきだということになる。

 

@GNPの構成比において、民間設備投資比が漸減して、国民消費、社会投資、輸出の比重が増大する。
A設備投資の加速的増大段階から減速化する段階においては、企業の財政的体質は強化され、この側面からの企業収益増が増大する。
BGNPの増加率が一二%以上でないと好況感が生まれなかった景気体質が、八― 一〇%でも好況感を生じ、長期的には、欧米先進国並みの五―七%でも好況感をもちうる段階に向かってゆるやかに漸進する。基準となるGNPの絶対額が大きくなっているから、増加率は鈍化しても、その絶対額は多大であるからである。最近の景気動向そのものの見方においても、わが景気の体質は過去に比して一変している事実を見落とし、または軽視して、過去の尺度で測る見方が依然として少なくないようだ。

 

たとえば、@金融引締めの影響をみる場合、A米国不況の影響をみる場合、B景気上昇がすでに五四ヵ月もの長期的上昇を続けていることの受取り方において、等々。景気の現実の変動は、景気を動かす側の要因いかんにもよるが、それに劣らず重要ないま一つの要因は、その影響を受ける側の経済体力の強弱、すなわちこれに対する抵抗力または順応力の強弱いかんである。

 

それによって、景気の現実は著しく違ってくるのである。ところが後者のわが経済体力は、二、三年前に比し、現在のそれは左の諸側面において画期的に強大化していて、もはや過去の尺度では間に合わない。しかるに、この肝心の点が、最近の景気論議にはほとんど抜けているか、または著しく軽視されている。